山と都会と時々、建築

山と都会と時々、建築

登山で自然の雄大さを感じ…都会で人間の営みを建築から見る…そんなブログです

スペイン・ビルバオ03

中編/スペイン・ビルバオ02に続きになります。

いよいよ今回が最後になります。いや〜、長かった、長すぎた(涙)

前回を読んでない方はリンク先から前編・中編を先にお読みくださいましたら!

yiablog.hatenablog.com

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これでやっと美術館を一周することができました。写真は中編「スペイン・ビルバオ02」最後の前広場から美術館を撮影してます。ここから向かって右に行くと美術館の入り口に、左に行くと美術館の川辺を行くことになります。

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 もちろん左を選択してまだまだ焦らしていきます(笑)少し進むと建物を人工池越しに見ることができます。ここから見える外壁は、ほとんど曲線で構成されています。凄まじいですよね。日本的に言うとチタン鋼板一文字葺きという感じでしょうか?この曲線を作ろうと思うとコンクリートか?貼りものになると思うのですが、個人的にはコンクリートよりはチタンの方が好きかなぁ。「フィッシュ・ダンス」を学生の時にみた衝撃で鱗っぽい感じがしっくりくる…本当に勝手な先入観です。平面でも放射線状にバラの花のような広がりをもつぐにゃぐにゃした形をしています。これを曲面を駆使して立体的に起こしているのですから途方もない作業だと思います。設計ではものすごい数の図面が起こされたようです。建物内がどうなっているのか…気になります。

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もう少し川沿いに進んでみると先ほど通って来た「サルベ橋」の下です。ここからだと赤い架構側面のストライプが見えます。ダニエル・ビュラン氏の作品はとても可愛らしいのですが、この橋もかわいいです。こんな大きな構造体でもストライプ柄を入れるだけで家具感というか玩具感が出てくる感じが面白いと思います。どうしても建築物は大きくて少し偉そうなので(笑)このような手法もあるなぁと参考になりました。そして有名な巨大クモが出迎えてくれます。東京の人は馴染みがあるかもしれませんが、大阪に住んでいる私はお初です。結構な大きさです。

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少し補足しておくと、女性の芸術家ルイーズ・ブルショワ氏によるインスタレーションの彫刻作品で「Maman(ママン)」という題名です。ママンとはフランス語で母という意味です。先程、東京の人は…と書いていたと思いますが実は東京の六本木ヒルズ森タワーの広場に展示されています。世界で常設展示で7箇所ぐらい、あと一時的な企画展示で世界各地で展示されていました。2枚目は下から見上げた写真ですが、よくみると体内に白い卵(大理石)が入っているのが見えます。確かに「母」だ。この作品の作家ルイーズ氏はかなり複雑な歪んだ家庭環境で育ったのですが…もし気になるようでしたら調べて見てください。この作品の印象も変わってくるかもしれません。ところで世界各地のクモは同じ大きさなのだろうか?

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 さて話は戻りますが、この辺の写真はあまり上がってはいなかったので載せてみました。先程の「サルベ橋」の真下になります。美術館と橋がきわっきわです。建築に興味がない人には、全く意味がわからない写真だと思いますが既存の橋のキワを潜る形で建築が伸びている感じは面白い、違うものが交わる関係性や状態は何かドキドキさせるものを感じさせると思います。右手のスロープに至ってはこの空間に誘い込んでいるのではないかと、うがった見方をしてしまいます(笑)

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 そしてこの「サルベ橋」を巻き込むようにして繋がっています。最初、遠くから見た時はこの帆のような構造物がなんの用途の構造物なのか分からなかった(今でもよく分からない)のですが、単純に昇降施設なんだろうと思います。

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 そして、界隈で一番有名な犬、マスコットのパピーです。これでやっとエントランスに着きました。さて、このパピーも芸術作品です。作家はアメリカ合衆国の芸術家ジェフ・クーンズ氏です。面白いのが最初はオーストラリアのシドニー現代美術館に展示されていたのですが、買い取ってはるばるこのビルバオにやって来たらしく、今では街一番(勝手に思っています)の人気者で芸術に関係なく愛されているようです。周りの人々と比べると大きさが分かると思いますが高さが12mもあります。身近な比較で言うと3〜4階のビル程度です。サイズ、素材など犬とは全く関係性がないものが形態によって犬を思い浮かべさせる。「天井のシミが顔に見える」のアレです。この現象を「パレイドリア効果」といいます。面白いですね。

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 さていよいよ念願の美術館です。ここが入り口になります。道路から河岸まで高低差があるのですが、きっと入り口はわざと下げていると思います。もちろん美術館に誘い込むアプローチとして日常からの離脱を演出する効果はあると思うのですが、単純にこのモニュメント的な形態に入り口という機能性が同居することはデザイン的に少し難しく感じました。そこを解決するためにもレベル差が必要だった気もします。エントランスとしてのサインは最低限に留められているので、入り口がわかりにくいです。当日も完全なるアジア人の私に入口を訪ねてくる欧米人が二組ほどいました(笑)なぜ?

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美術館のエントランスになります。 この美術館は、ガラス、チタン、そして石灰岩で作られている。一見、チタンとガラスがメインのように感じますが、道路側そしてエントランス部分では肌色の石灰岩を見ることができます。特にクレバスのような折り重なる割れ目を地下に進む感じと石灰岩の質感、そしてワタクシコト、晴れ男による(笑)青空のこの写真は個人的には一番好きなカットです。

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 世界にはグッゲンハイム美術館として、ニューヨークとイタリアのコレクション、そしてこのビルバオと3箇所あります。世界的に美術館ブームなのかルーブル美術館アブダビに美術館を作っています。このアブダビの美術館についてもアーカイブの方に載せているのですが、再編集でこちらのブログにも再掲しようと思っています。

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 そしてこちらの美術館の正式名称は「ビルバオグッゲンハイム美術館」になります。設計者は現在はアメリカを本拠地にしているフランク・オーウェンゲーリー氏です。出身はカナダのトロントらしいのですが、1929年生まれとのことで結構なご年齢です。この美術館が成功して世界中にゲーリー建築が建てられています。日本には神戸にひとつだけありますが建築というよりアート作品であるため物足りなさがあったので、この建築を見れたのはとても良い体験でした。下記に美術館の公式HPを貼っておきます。ちなみにこのページだけ日本語です。入場料はググっていくと分かるのですが、16€です。

https://www.guggenheim-bilbao.eus/ja/hours-and-admission

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 写真は川岸側の窓になります。向こう側に見えるビル群は対岸になります。真っ直ぐなビルに対して斜めのサッシがまるで一つのアートとして成立しているようです。

 もちろん内部も真っ直ぐなところがほとんどありません。この建築を作るために航空力学用の3次元CADソフトを用いて構造計算しているようです。

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 同じ場所を外から見たところ。途中から反り返るように曲がっています。また、ガラスのエンド処理はダンシング・ハウスっぽい感じがあります。

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 この辺の写真は、設計している人へ…です。サッシ自体は結構スレンダーですが割とルーズな収まりで驚きました。今気がついたのですが、床の目地を内外通しているところは国が変われど!というところでしょうか。

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 そしてカーテンウォールを受けるためのH型鋼が構造材として剥き出しでバックマリオンとなっています。3〜4層の吹き抜けなので梁で振れと風圧を受けている感じで構造的な解決なのだと思うのですが、結構露骨な構造フレームでゲーリー氏らしいとも言えます。

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 エレベーター乗り場の正面とガラスのエレベーターシャフトです。

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 この日は、学生さんらしき人集りを館内で多く見かけました。女の子は背も高くて大人びた子が多かったのですが、男の子を見る限りきっと中学生ぐらいかな?と思います。フランス語を喋っていたのでフランスからの見学者だと…わざわざ遠くから国を越えて見学だなんてと考えていたら、実はフランスからとても近いと後で気が付きました。例えばワインで有名なボルドーからだと車で350kmぐらい、国境まで120km!車で国境越えの旅行なんていいなぁ〜。

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 最上階の通路部分は天窓になっていて、曇り空でも明るい空間でした。どうでしょうか?外部から見た印象より、かなり開放された印象ではないでしょうか?掲載している写真はアトリウムになるのですが、なぜ天井までガラスのアトリウムで構成されているのか?気になると思います。そこで下手っぴですが、手描きのスケッチで解説します。

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 実は赤丸で囲んだところを中心に展示室などの箱が突き刺さるような形で配置されていて、その箱をブリッジのような通路が結び、ガラスのアトリウムで囲うプランになっています。それぞれ展示室などにあたる箱の上下左右のズレによる隙間が意外と抜けのある空間に生み出しています。

あと意外と展示スペース、特に企画展示はシンプルで普通のホワイトボックスだったので作品を拝見している時は他の美術館と同じ感覚です。これに関しては賛否両論あるようですが、企画展示の場合はこれでいいのかなぁと思います。

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 また、前2枚の写真では廊下・通路がまるでブリッジのようなデザインになっていることに気付くと思います。実際にこの廊下・通路は何気なく歩いていても橋を渡るような感覚を覚えます。

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 とくにこの写真場所のこの部分だけを見ると非常に違和感が残る箇所です。実際に最初見た時には一瞬意味が分からなかったです。写真の左右の通路の間に人も落ちないような隙間(吹抜け)があり大層に手摺が四周回されています。合理的に考えれば単純にこの隙間を埋めれば済む話で通路は広くなるし行き来がシンプルになるし手摺がいらないからすっきりします。しかし先程のブリッジのような通路と考えればコンセプトに忠実に頑なに実行されていてこの軽やかな通路による空間を共有するためには必要なことで、個人的にはとても好きな箇所です。ディティールやデザインがコンセプトに沿うことが大切だと気付かせてくれます。

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と言うわけでそろそろ終わりにしたいと思います。なかなか長編のブログになってしまい、途中で何度も心が折れました(笑)多分、前中後で一万字以上(今回だけで4500文字以上)は書いているのではないでしょうか?仕事柄、建築を見学するために旅行することも多いのですが、建築のおかげでビルバオ市というとても素敵な街に出会えたのは本当によかったです。建築に興味がなくても十分に観光できますし、スペイン旅行の際にはぜひ行って欲しいなと思います。当日は美術館を見学した後に、バル巡りをしながらワインとピンチョスを堪能したのですが「最高か!」と必ず叫ぶことになるでしょう(笑)この辺りのこともブログでいつか書いてみたいと思っています。

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